2009年1月26日月曜日

痛み研究会

1/22, 23と生理研(岡崎)で痛みの研究会(http://www.nips.ac.jp/cs/H20itami/index.html)があり、教室からも大学院生2名が発表した。痛み研究では、今でもneuropathic painが大きなテーマで、教室からも1題がこのテーマだった。

とはいえ、これまで臨床で経験する、神経の引き抜き損傷や、神経切断による慢性痛の患者さんの数は決して多くない。だからアメリカで、neuroptahic painが研究の主題になっているのも不思議だったし、神経絞扼モデルなどが、盛んに基礎研究に用いられる状況に違和感を持ってきた。アメリカでは銃創で神経を損傷する人が多いで、このテーマが盛んなのかなと、思っていた。

研究会の発表を聞いて、今さらながら、痛みの基礎研究と臨床(ペインクリニック)との間に大きな乖離があると実感した。痛みの診療では、最終的に、患者さんの痛みを個別化する必要がある。しかし、痛み研究が目指すものは、痛みメカニズムの一般化である。しかし、個別化にせよ、一般化にせよ、「痛みによる情動と認知の統合がいかになされているか」、という主題こそ、痛み研究でもっとも重要な課題ではなかろうか。 でもこの課題は重すぎて、現状では、その解決の糸口すら見えていない。 だから、おのずとネズミの痛み行動と、その原因の分子レベルでの解明(レセプタやチャネルの増減と、それらの遺伝子レベルでの調整)が、もっともかっこいい研究テーマに見える。

しかし、そもそもネズミが痛がって足を振ったり舐める行動と、ヒトが「痛い」と訴える、(恐らく)高度な神経活動との間に、どのような関連性があるか、さっぱりわからない。inbredなラットといえども、当然、個体によって行動や性格?には大いなる差がある(ラット一家と暮らしてみたら.服部ゆう子著http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/search-handle-url?%5Fencoding=UTF8&search-type=ss&index=books-jp&field-author=%E6%9C%8D%E9%83%A8%20%E3%82%86%E3%81%86%E5%AD%90)。したがって、動物における個体差を無視して、あるいは無視できる現象のみを対象として得られた研究結果は、結局、臨床応用には耐えないのではないだろうか。

2009年1月12日月曜日

とうとうきたか!

とうとうきたか! 慢性痛の補償の裁判にfMRIが使われるかも知れないという記事がScienceに載っていた。http://www.sciencemag.org/cgi/content/full/323/5911/195

今回は示談で済んだようだが、今後、fMRI、PET、脳磁図をもとに、痛みの研究者が、「患者が本当に痛いのか」について、法廷で証言を求められる時代になるのだろうか。

そもそもアメリカでは、neuroscienceの最新の知見が、法曹界に大きな影響を与えつつあるらしい。http://www.cell.com/neuron/retrieve/pii/S0896627308008957 例えば、幼少時の外傷や、テレビゲームのやり過ぎで前頭前野が損傷したら、切れやすい人や犯罪者になるかも知れないという例の仮説がある。今後は、脳障害が原因として裁かれるようになるのだろうか。また、fMRI、PETなどが、被告の感情の証明や、嘘発見にも利用されるかも知れないそうな。

現在、研究は細分化されてしまったので、少しでも分野が違うと、研究手法が正当かどうか、専門家でも判断に迷う。このような状況でneuroscienceを法曹に持ち込むと、あやふやな知見による判決が出されるかも知れない。現代版の魔女裁判ってことか、ちょっと心配。

はじめます

僕が信州松本に赴任して1年経った。しかし、最近どうも、教室の若い人達と話をする機会が少ないような気がして反省している。学生実習が終われば、そのまま委員会や学会事務局に向かい、不在になることも少なくない。

僕の元ボスは、僕が若い頃、真夜中まで勉強していたら、時々教授室に招き入れては、いろいろと話してくれたっけ。教室の主宰者が何を考えているかを、若い教室員が知ることは重要だと思う。まあ、大したことは考えていないのだが...ボスが大したことを考えていないということを知るのは、教室員にとって重要だと思う。そして、相手が何を考えているかを想像すること、知ることは、コミュニケーションにとって大事なことだと思う。

そこで、教室の人達に向かって、柄にもないブログを始め、僕が普段考えていることや、感じたことを書いてみる。元来、筆不精なので、どうなることやらわからないが、まず始めてみる。

とはいえ、やっぱり一番大事なのは、face to faceで話をすることです。早朝だろうが真夜中だろうが構わないので、臨床や研究で悩んでいることがあれば、遠慮なく教授室まで相談に来てくださいな。教室員の相談に乗るために、僕はここにいるんだからね。