週末に福井大学で、「痛みの機序」のお話をさせていただいた。5年生と一部6年生に向けた講義では、6年生は熱心に聞いてくれたが、5年生の一部は入眠に陥り覚醒不能であった。他方、その後の初期研修医への講義では、麻酔業務後にもかかわらず、それなりに話を聞いてくれた。
そもそも、「痛み」について、学生や研修医が興味を持っているはずがないので、上出来だったと思う。僕だって20年近く前、元ボスから「痛みを専門にせよ」と言われた時、「痛み」が男子の本懐になるとは思えず、しばし茫然としたからね。痛み研究をライフワークに決めるまで、随分と時間がかかった。もっとも、医学部5年生では、痛みは勿論のこと、iPS細胞の話でも、入眠するに違いないけどね。そして講演後、福井の教室の方々のお話をいろいろ聞くことができた。手術室も素晴らしく整備されていたし、薬物のpharmacokineticsも電子チャートに入っていたし、信州のお手本になることが多かった。
その翌日、大阪で製薬会社の研究者の集まりに参加して、鎮痛薬の創薬について討議する機会があった。こちらは当然ですが、面白かったですね。立場は違っても、痛みという感覚(と情動)について、日頃から考えている者同士なので、いろいろと触発された。また、創薬に向かうプロセスと、M.D.が研究対象を選ぶプロセスはよく似ていると思った。勿論、前者の姿勢がより厳しいのは当然ですね。投資額だって、僕達の科研費 数百万円~数千万円とは桁が2-3つは違うだろうし、同じ社内といえども、部門外からのピア・レビューに常に晒されているだろうし。
しかし医者のルーチンワークとは違って、製薬会社の研究者はきわめて創造的な仕事ですね。そして、M.D. researcherがルーチンワークに時間を割かれることを考えると、薬学出身のPh.D.の方がむしろ優位ですね。さらに最近、M.D.のP.I.が薬学部に転じる傾向があり、その理由が薬学部の学生・院生の方が医学部よりやる気があって優秀なためと聞いたが、身近なM.D.と比較して首肯せざるを得ないと思ったね。こうして、将来、製薬会社の研究者の力で、是非とも麻薬(オピオイド)を超える鎮痛薬を開発して欲しいと願っている。そして、僕としても赴任後1年以上経ったので、いつもまでものんびりとはしてられず、そろそろ研究を前進させねばと思い、帰松した。
今週末は福井や大阪で、いろいろな刺激を受けた。じっくりとした体系的な仕事をするために、自然に囲まれた信州は最適だが、1-2回/月の週末は、刺激を受けに都会に出る必要があると思う。そうしないと、あっという間に、世間知らずで内向きな人間になってしまうぞ。北海道の後輩の方が、飛行機代が高いにもかかわらず、週末、東京などでの研究会や勉強会に熱心に出ているような気がする。信州は東京や大阪に近いのだから、教室の皆も、もっとどしどし週末に勉強に出て欲しいと思う。自ら働きかけ続けないと、事態は打開できないからね。