2009年5月8日金曜日

生命科学シンポジウムその1:光合成

大型連休中に、東大で開催された生命科学シンポジウムに行ってきた(http://www.biout2009.info/)。東大が生命科学のネットワークを強化するため、大学院生募集を副次目的として、一般公開しているシンポジウムです。各分野の先生が20分で自分の研究成果を一般人を相手に発表するので、いろいろと勉強になった。その一つは発表の仕方ですね。

短い時間で膨大な研究成果を発表するのは、つくづく難しいと思う。語りたいことは山ほどあるだろうに、聴衆は一般人から当該分野の研究者までの多彩な層を含むため、基本的な知識に大きな差がある。こうした場合、すべて理解してもらおうと膨大なスライドを用意すると、まずは失敗するね。今回たまたま愚息(中学生)を連れて行ったのだが、彼の反応が発表の成否のバロメータになった。「中学生にも理解できるように発表しろ」というのは実に本当ですね。中学3年生の数学と理科の知識があれば、各テーマの重要性と研究の方向性は理解できるので、発表の仕方で成否が決まります。医局のASA refresher courseの発表などでも、一所懸命、文献を読み込み勉強した人が、発表の仕方で失敗しているのをよく目の当たりにする。勉強は必要条件であって十分条件ではない。十分条件には発表の仕方が加わる。それくらい、勉強にも発表方法にも時間をかけて準備しないといけないということですね。アメリカ人は、発表している自分の姿をビデオに撮って(後ろ姿まで!)、練習するからね。僕も留学中に選択した英語のクラスで、発表の練習されられたもんなあ。まだ教室の皆さんは、発表自体の重要性を認識していないように思う。

さて、いくつか面白い発表があったので、追々報告したい。今回は、植物はなぜクロロフィルという色素を光合成に使っているか、についてです。理学部植物学講座の寺島教授は、葉っぱが光合成によって光エネルギーを効率よく得ようとするならば、葉っぱは黒色(つまり光をすべて吸収する色)であるべきだと語り、聴衆の興味をぐっと引きました。愚息まで身を乗り出したもんね。そして、葉っぱの緑色は緑色光を吸収しにくいから緑色に見えるのですが、実際は、葉っぱの内部に入った緑色光は何度も屈折して、葉っぱの裏側にある海綿状組織に吸収されるので、緑色光の吸収効率は結構高いことを示しました(勿論、緑色光以外の吸収率はもっと高いのですが...)。そして、葉っぱの表面の葉緑体の光合成はすぐに光飽和してしまうので、それ以上、白色光を強めても熱エネルギーになって散逸するだけですが、緑色光だと葉っぱの裏側まで届き、まだ飽和していない葉緑体の光合成を駆動することを示しました(http://www.biol.s.u-tokyo.ac.jp/users/seitaipl/index.html)。こうして陸上植物が、クロロフィルという緑色の(つまり緑色光を吸収しにくい)色素を光合成に使うことが、光エネルギーを取り込むためには、合目的であることを証明したのでした。パチパチパチ。

光合成について考えたのは、高校生の時以来だと思うが、大変面白く、かつリフレッシュされました。しかし実は、光合成に関する現象の大半はまだ謎だらけだそうな。これを聞いて、麻酔のメカニズムが不明なことは、科学の世界において大した問題ではないと思ったね。麻酔のメカニズムより、光合成のメカニズム解明の方がどう考えても重要だもんね。光合成こそ、自然に備わった太陽光によるエネルギー発電だから、化石燃料消滅後のエネルギー獲得にもっとも重要な研究といえるもんね。

まあ、自分がやっていることをあえて矮小化する必要はないが、たまには他分野の研究を知って、自分の分野を客観視することも重要でしょうね。東大の生命科学シンポジウム、なかなか面白いぞ、来年も行こうっと。