2009年5月26日火曜日

生命科学シンポジウムその2:ヒトはどのように特別なチンパンジーか

東大生命科学シンポジウムで面白かった二つ目の講演は、総合文化研究科の長谷川寿一教授の、「ヒトはどのように特別なチンパンジーか」でした。

ヒトは遺伝学的にはチンパンジーと最も近縁で、チンパンジーもゴリラよりヒトに近縁だそうです。果実依存性の他の類人猿とは異なり、ヒト/チンパンジーだけが肉食を行い、雄同志が絆に結ばれて集団で生活し、協同で狩りを行うなどの特徴がある。そして、(残念なことに)ヒト/チンパンジーだけで、集団間の闘争(戦争)が見られるらしい。講演の中での、チンパンジーの集団が、他グループのチンパンジーを「狩る」映像は衝撃的であった。

さて、ヒトとチンパンジーを分けるものは何か。ヒトがチンパンジー以上に認知機能が発達したのは、群れ生活における社会関係の認知と他者操作が影響したとのことで、これを社会脳仮説というらしい。この結果、ヒトは模倣、共感、他者の内面理解(マインドリーディング)、言語といった能力を獲得して、文化や文明を築き上げた。 実際、群れの大きさ(サイズ)と脳容量の間により強い相関関係があるらしい。そして、火を用いた調理と肉食によって、類人猿の伝統である果実依存性から解放され、集団生活を安定化できた。こうして、手間暇のかかる子育てを集団で協同で行なうようになり、繁殖開始年齢が遅い大きな脳を持つ子どもを、短い出産間隔で産出できるようになった。こうして、ヒトが地球上で繁栄してきたと考えられている。

こうした長谷川教授の方法論は、チンパンジーの行動観察を通して、ヒトとの共通部分と異なった部分を明確にすることで、「ヒトとは何か」というテーマに迫ろうとしているのですね。麻酔によって意識を消失させたり、痛みを抑制することで、逆に「意識とは何か」、「痛みとは何か」を知ろうとする、麻酔科学に似ているかも知れませんね。