2010年1月28日木曜日

松本から東京は遠いのか近いのか

先週○曜日、午後3時過ぎから松本→上田(三才山トンネル経由)→(新幹線)で東京に出て、午後6時からの小さい研究会に出席しました。

会はT大学名誉教授のH先生を長として、多施設で集積した臨床データを8-9名の委員で討議しているもので、今回は8月の国際学会に出す抄録を作成しました。会の後はいつものように「なだ万」の上品なお弁当をいただいてから、午後8時過ぎに会場を後にして、東京→(新幹線)→上田を経て、車で三才山トンネルを通って、午後11時前に信州大学に帰ってきました。一昨年から、こんなことをもう10回くらい繰り返しているのですが、いつも不思議な感じがします。ついさっきまで東京の中心の帝国ホテルで「なだ万」のお弁当を食べていたのに、今、信州大学の医局でコンピュータに向かって仕事している自分がいるからです。

信州松本から東京まで、中央線の「特急あずさ」に乗っても、車で上田に出て新幹線に乗っても、大体2時間半かかります。そして面白いことに、松本から車で中央自動車道を走っても、やはり2時間半程度で新宿に着いてしまいます。これは昔留学していた、アメリカのコネチカット州のニューヘブン(人口10万人程度の小都市)(http://en.wikipedia.org/wiki/New_Haven,_Connecticut)からニューヨークまでの道のりに似ています。ニューヘブンからニューヨークまでは、Metro-Northという電車を使っても、車で高速95号線を走ってもほぼ同じく2時間程度かかりました。

しかしアメリカと日本では、この距離の捉え方が大きく違うように思います。アメリカ人はニューヘブンとニューヨークをあまり離れているとは考えていないようで、ニューヨーク郊外にニューヘブンがあるという認識に近かったように思います。実際、ニューヘブンよりも少しニューヨークに近い、コネチカット州のスタンフォードやグリニッチからはマンハッタンに通勤している人は多かったしね。一方、日本人(特に松本人)は東京⇔松本はとても遠いと考えているように思います。これは鹿児島⇔東京の飛行時間が1時間55分のように、日本ではどんなに離れた地方からでも、東京へは2-3時間で着くことができるからかも知れません。つまり距離的にはずっと遠い町から東京までの所要時間が、松本から東京までの所要時間とあまり変わらないので、松本はついつい不便な場所にあると考えるのかも知れませんね。

ところで、ニューヨークから2時間以上離れているニューヘブンは、学問するのに不利な土地だったかというと、当然そんなことはないのですね。ニューヘブンにあるイエール大学(http://www.yale.edu/)は、(僕が留学していたlab.はともかく)田舎にあるにもかかわらず、ハーバード大学やMITに次ぐ大学だと思います。そして、ボストンという都会にあるハーバード大学が、MGHやBWHなどの巨大な関連病院を誇るのとは違って、イエール大学のニューヘブンホスピタルは地味な地域の病院で、イエール大学自体はむしろ基礎的な研究できらりと光っていたように思います。イエール大学の偉いところは、大学病院をMGHみたいな巨大病院にしなかったことで、多分、自分たちの役目をしっかりと自覚していたのですね。

僕も東京から離れた信州松本で臨床 & 学問することを、決して不利だとは思っていません。流行に流されず、臨床を志向したきらりと光る基礎的研究を地道にやっていけば、世界に伍することができるはずです。人にはそれぞれ役目があるのです、それを間違っちゃいけない。東京にある巨大な大学病院群とは違って、信州大学の役目は、流行に左右されない地道な臨床 & 研究だと思うのです。東京で一見華々しく臨床医をやるのも、信州で地道に臨床 & 研究するのも、社会からの求められ度に差はないのです。要はちゃんと役目を果たすかどうかに尽きますね。

以上、帝国ホテルから新幹線を経由して、暗い山道を車で信州大学まで帰ってくる道すがら考えたことでした。

2010年1月17日日曜日

電信柱にしみついた夜

年末に京都御池で、そして先週末は東京神楽坂で、お酒を飲む機会がありました。前者は大学時代の同級生達との忘年会で、後者は新宿にある2つの大学麻酔科のO先生とU先生との会合でした。O先生の計らいで、東京でも京都っぽい所ということで神楽坂が選ばれたようで、料理も加賀料理+シャンパンという洒落たものでした。確かに神楽坂の一角は昔ながらの風情を残していて、好きなエリアなのですが、「ほらほら、東京にだってこんな処も残っているでしょ」という、計算されて仕組まれた空間に感じてしまうのですね。これって僕がひねくれているからかも知れません。でもちょっと遠くを眺めると、新宿の高層ビル街が見えるのですから、昔ながらの風情っていわれてもなぁ... 素直に頷けない所以です。

そもそも新宿区には、慶応、女子医、東京医と3つの大学病院がほぼ半径500 m~1 km以内にあるのですね。これ以外にも国際医療センター、社保中央、東京厚生年金などの大病院があって、東に1-2 km行くと、日大駿河台、順天堂、医科歯科、東大、東京逓信、三井記念と目白押しです。ということは、信州と東京とでは、大学医学部・病院の概念や役目が違うということですね。したがって、医師/研究者の目標も異なるはずです。(多分)都会では流行を追い続けていないと、取り残される不安があると思います。でも一体、何から取り残されるのでしょうか。田舎のslow lifeに染まるのがベストではないのですが、都会にいると却って見えない本質もあるように思います。いずれにせよ、夜の12時に新宿にいる人達だけで、信州松本の人口をはるかに超えているのでしょうから、僕から見るととんでもない世界です。

宿泊した新宿の高層ホテルからの外の眺めは、もうブレードランナーの「強力わかもと」のネオン都市そのものです。新宿は進化し過ぎた人類の脳が作り出した人工世界なのでしょうが、阪神大震災を知る者としては、こうした人工的な構造物が恒久的に存続するとはどうしても思えないのです。そして何より、自然から離れて人工都市に閉じ込められると、自分が動物であることを忘れて、脳がヴァーチャル世界に向かって走り出しそうな不安を感じますね。

一方、年末の京都では、昔住んでいた修学院~一乗寺あたりをブラブラしたのですが、昔ながらの学生街で20年前とあまり変わっていませんでした。一乗寺といえば、宮本武蔵が吉岡道場一門70名と決闘して、一門の嫡子4歳を切り捨てたという「一乗寺下り松」の辺りで、昔は山の中だったはずです。もっともこれは吉川英治の小説での話で史実ではないそうで、決闘の規模はもっと小さく、決闘の場所も南の街中だったようです。にもかかわらず、一乗寺にはちゃんとその時の松の木と決闘の碑が残っていて、ここで宮本武蔵と吉岡道場との決闘があったと書かれているのです。これまた京都ならではの、さりげなくあざとい演出ですね。でもこの程度の演出は、新宿の人工の構造物群と比べると、笑って許せる範囲かも知れません。

ヴァーチャル世界が行き着いた先の新宿や、さりげなく(あざとく?)昔を保っているふりをしている京都とは違って、信州松本では常念岳をはじめとする北アルプスの雄姿に圧倒されます。これは人工的な構造物ではない、自然のありのままの姿です。特にこれから春にかけては空気が透き通り、毎日のように雄大な山々を見ることができるうれしい季節です。この風景を見る度に、ヴァーチャル世界に流されそうな自分を戒め、じっくりとライフワークを進めていくための勇気をもらえるような気がします。今回はちょっときれいにまとめてしまいましたが、京都御池や東京神楽坂の夜をフラフラと酔っぱらって歩きながら、やっぱり信州はいい所だとしみじみと思ったのでした。

2010年1月3日日曜日

2010年 寅年

2010年、明けましておめでとうございます。今年は寅年です。「寅」の本来の語源は、「螾」(いん:「動く」の意味)で、春が来て草木が生ずる状態を表しているそうです。その後、文字の簡略化が行われ、「螾」の虫編が除かれ「寅」だけが残ったため、動物の「とら」の名称を当てたそうです。つまり寅年の本来の意味は「春の息吹」であり、動物の寅とは無関係なのです。まぁ、すべて受け売りですが...

動物としての寅(虎)からは、中島敦の「山月記」(http://www.amazon.co.jp/李陵・山月記-新潮文庫-中島-敦/dp/4101077010)を連想しますね。李徴という才知あふれる男が、詩家として名を遺そうとするのですが、あまりに強すぎる自尊心や尊大な羞恥心のために、最後には一匹の人喰い虎に変身してしまうというお話でした。中・高校生の頃って、みんな過剰な自意識を持て余している時代ですので、わが身に置き換えこの作品を記憶している人も多いのではないでしょうか。当時から30年以上経った現在の僕の理解としては、「過剰な自尊心」を「健全な野心」に昇華させて、周囲と協調して努力することが重要という、教訓めいたお話だということです。うーん、あまり文学作品を読み込む力は進歩していないかも知れません。センター試験(当時は共通一次)で国語は悲惨な結果だったしなぁ...

いずれにしても2010年寅年、信州大学麻酔科は、「寅→虎→山月記→自意識過剰な孤軍奮闘→人喰い虎になる」のではなく、寅年本来の意味として、「寅→螾→春の息吹き→教室員が協力して新たな発展を遂げる」を目標にしたいと思います。まあ年始なので、小さくまとめてみました、パチパチパチ。

ということで、今年も1年、各人が新たな目標を持って頑張りましょう。因みに僕の目標の一つはJB-POT(周術期経食道エコー試験)のまずは受験(できれば合格)です。教室のJB-POTTerの人達、サポートを宜しくね!