O大学主催の初期研修医を対象としたセミナーで直島(http://www.naoshima-is.co.jp/)に行ってきました。このセミナーは4-5年前に始まり、年々参加者が増えて今年は日本全国から70名が集まったそうです。麻酔科を専攻する後期研修医は毎年400名程度なので、このセミナーに参加した人が全員麻酔科を専攻すれば、全国の麻酔科後期研修医の1/6-1/5が直島セミナー出身者ということになります。Z会の東大合格者の割合みたいだね。
2日にわたり、O大学のスタッフたちが、麻酔の歴史から脳蘇生、ICU管理、呼吸・循環生理、エコーガイド下神経ブロックなど、麻酔/集中治療のすべての分野の講義をしていました。スタッフの質の高さに驚きましたね。O大学の教室には、日本や世界的に名が通っている先生方が沢山いて、その伝統のせいか、若い先生方の講義のレベルの高さにも脱帽しました。
O大学のM教授は、崩壊の危機に瀕している麻酔科医療を立て直すには、大学が責任を持って若い麻酔科医を教育して、日本の麻酔科領域に秩序とモラルを取り戻す必要があると考えています。僕もこの意見に完全に同意します。そしてこのM教授をサポートして、O大学の実力派スタッフたちが、全国から集まった初期研修医たちに、ホスピタリティを持って接している姿は感動的ですらありました。
しかし、セミナー参加費1万円で直島観光ができるので応募した、なんて若者もおりました。O大学のスタッフたちが自分の時間を割いてくれている有難さを、君たちは理解しておるのか!!、それって人としてどうよ!! と思うこともありました。
最近の若者は、密に人間関係を積み上げたつもりでも、メール1本で入局を止めた、なんてことが起こります。せめて電話か直接会って相談してほしいと思うのですが、あまりに礼を失している若い医師が確かにいます。これって、単に僕が年寄り臭くなって、若者に対して説教臭くなっているだけではないと思うのです。
信州でも初期研修医向けのセミナーをしてみては、と言われました。でもやっぱりメール1本でサヨナラされた過去の体験から、二の足を踏んでしまいますね。歳をとると、一度若者から受けたトラウマから、なかなか回復できないものです。
但し、70名もの(一応は)麻酔科志望の初期研修医がいる現実に、少し勇気づけられて直島を後にしたのです。信州でも若い仲間が増えるといいなぁ。
2010年8月30日月曜日
2010年8月21日土曜日
風が乗越す 雲が乗越す 鳥が乗越す
毎年「一ノ沢ルート」ではつまらないので、今年は蝶ヶ岳→常念岳→常念小屋で、常念診療所(http://square.umin.ac.jp/jonen/)に行って参りました(下地図)。常念小屋は常念乗越(のっこし:標高の高い峠、尾根の鞍部)にあります。他の乗越としては、飛騨乗越、別山乗越、真砂乗越、室堂乗越などが有名です。常念小屋(http://www.mt-jonen.com/)の親方のYさんに教えてもらいましたが、常念乗越は文字通り、風が乗越し、雲が乗越し、鳥が乗越すところです。
確かに、2日目の早朝、穂高~槍ヶ岳に至る壮厳な風景を見ることができたのですが(下左図)、あれよあれよという間に常念乗越に風とガス(雲)が吹き上がり、僅か5-10分の間に眼前の槍ヶ岳は霧の中に消えて、ここが風と雲の通り道であることを実感しました(下右図)。
常念乗越に冬期設置した風力計は、風速60 m/sを振り切って壊れていたそうです。冬には人間がテントごと簡単に吹っ飛ばされる風が吹いているということですね。
この風に乗って渡り鳥も常念乗越を通るそうで、この鳥たちを狙って剣岳のオオワシ(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%82%AA%E3%83%AF%E3%82%B7)もこの地にやってきます。渡り鳥は内部にいる仲間が風の抵抗を受けにくいように、三角形の連隊を組んで飛んでいます。しかし常念越えで体力を消耗して、三角形の底辺から後方に遅れる鳥を狙って、オオワシは高所から一気に急降下して捕まえるそうです。つまり、風の通り道である常念乗越は、剣/立山から出稼ぎに来たオオワシや、その帰りを待っている子供たちの生存にも重要な場所だということになりますね。
地殻の変動により地層の盛り上がりとして山々が誕生し、その山々の形状から風の通り道ができて、この道を通って雲や鳥が移動し、自然と生きものとの営みが密接に関連していることにちょっと感動しました。
今回、早朝以外に槍ヶ岳をちゃんと見ることができませんでしたが、下山中に子供連れの2組の雷鳥たちに出会いました。そういえば、せっかく3000 m級の高地に逃げ住んだくせに、飛べなくなったために、ワシやタカの天敵の目を逃れて、ハイマツの中に隠遁している雷鳥も不思議な生きものですね。
いずれにしても、今回の山行を契機として、今後、原則日帰り(せいぜい1泊)を旨とする山行をしていく予定ですので、麻酔科山部の方々(それって誰だ?)も是非、時間を作って参加してくださいね。よく学び、よく遊びましょう。
【記録】
- 三俣→(4時間)→蝶ケ岳ヒュッテ→(4時間半)→常念岳→(1時間)→常念小屋/診療所(1泊)
- 常念小屋→(1時間)→前常念→(3時間半)→三俣
2010年8月9日月曜日
上高地(松本)→ボナールの白猫(東京)→教授就任パーティ(名古屋)
前週末、まず金曜日は上高地でのH薬大の卒論旅行に参加し1泊してきました。信州大学から上高地まで1時間少々で、上高地も松本市です。このH薬大のlabはオピオイド研究で有名で、今後、共同研究を模索しているのですが、なんとこのlabには教官に加え、22、23歳の若い男女を中心とした学生・大学院生、総勢約50名が所属しているのです。女性が多いにもかかわらず体育会系に鍛えられていて、礼儀作法がとてもしっかりしています。夜遅くまでの勉強会では、皆さん積極的に発言しよく勉強しており、びっくりしました。現代っ子をどのように教育したらこうなるのでしょうか。ともあれ、最初の数年間の教育が最重要だと思いました。
翌早朝、清々しい上高地を後にして、O製薬の輸液研究会で東京に向かいました。研究会前の時間を利用して国立新美術館(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%BD%E7%AB%8B%E6%96%B0%E7%BE%8E%E8%A1%93%E9%A4%A8)のオルセー美術館展(http://www.nact.jp/exhibition_special/2010/orsay/index.html)に行ってきました。見学者に溢れ入館まで30分かかり、駆け足見学となりました。とはいえ、今回はボナールの「白い猫」とヴァロットンの「ボールで遊ぶ子供」だけが目的だったので、目的は達成できました。僕は学生時代、なんと美術部にも所属していたのですが(!?)、絵を平面的にしか描けないせいか(!?)、平面的ながらも静かな動きがあるボナールの絵が好きでした。その代表が(僕的には)白い猫ですね。ボナールはやらしい系の絵も多いと思うのですが、むしろ静物や猫が好きです。うーん、この絵は背伸びしている猫を、感じるままに投影して描いたような雰囲気が好きです。研究会はともかく(!?)、蒸し暑い東京に出て行ったかいがあったというものです。
翌日曜日は、A医大麻酔科のF新教授就任パーティのため、名古屋へと移動しました。A医大には教室員3名を研修させてもらいましたし、先代教授のK先生は尊敬する麻酔科医の一人なので出席したのです。さて、世間的には教授になるっておめでたいことなのですね、皆さん、「就任、おめでとう!」と言うのですから。もっともその後で、手術件数を増やせ、事故するな、研究せよ、教育せよ、日本一の病院にせよ、といろいろな注文がついましたがね。僕にはこちらで就任パーティがなかったので、誰からもおめでとうとは言われなかったかわりに、教室運営についての注文もありませんでした。ってことは、今後、自分の好きにしていいんだと勝手に解釈していますが...いかがなものでしょう...。
ともあれ、こうして週末はあっという間に(いつものように)消えていきました。うーん、これが教授の仕事というのではちょっと納得いかないので、この夏からちょっと動物実験を再開したいと思っています。大学院生の諸君、ぜひぜひ手伝って下さいね。
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