少し前ですが、「情熱大陸」というTV番組で佐藤克文さんを特集していました(http://www.mbs.jp/jounetsu/2009/11_22.shtml)。今年の東大生命科学シンポジウムで、講演を楽しく聞かせてもらった海洋生物学者でした(http://www.biout2009.info/lecture/lecture_c02.html)。このシンポジウム冒頭で、東大の海洋研究所が岩手県大槌町にあるので、「岩手にある東大から来ました」と言ってウケていたのを覚えています。
佐藤さんは、ワタリアホウドリなどに付けた3次元加速度計からのデータから、恐竜の仲間であるブテロサウルス(翼竜)の体重が100 kgに及ぶと推定されるので、風速ゼロの環境下での羽ばたき筋力では離陸できないという衝撃的な報告をしました(http://www.afpbb.com/article/environment-science-it/science-technology/2524733/3394407)。つまり、最初の鳥類は飛べなかった!、ということで、ダーウィンの「自然選択」に矛盾するかも知れませんね。いずれにしても、 この佐藤さんの研究では、僕達の教室のH.T.先生が麻酔科医のエネルギー消費を測定するために、腰に付けている3次元加速度計の小さいものを、ワタリアホウドリにつけたというだけです。それでも、麻酔科医が手術室で走り回って消費しているエネルギーを調べるより、ワタリアホウドリの羽ばたきデータの方がはるかにダイナミックで面白そうですね。
その他、佐藤さんはウミガラスが潜る時の体温保持の仕組みや(http://www.sciencedirect.com/science?_ob=MImg&_imagekey=B6VNH-4MXBFD8-2-7&_cdi=6179&_user=8062752&_orig=search&_coverDate=06%2F30%2F2007&_sk=998529997&view=c&wchp=dGLbVlz-zSkzV&md5=cabb52b953d4afe4cdd081e46ede6519&ie=/sdarticle.pdf)、変温動物であるウミガメが、周囲の水温よりもむしろ高い体温で保持されていることを証明しました。これって、ウミガメは機能的には恒温動物だということで、大変な発見だと思います。そしてペンギンは潜水艦のように、浮かび上がる時にはほとんどヒレを動かさずに肺の空気の浮力だけで浮上して、水面近くで空気を吐き出して速度を落とすことや(http://jeb.biologists.org/cgi/reprint/205/9/1189)、逆にアザラシは空気をほとんどはき出してから潜るので,300mの深さまでまでヒレを動かさずに一気に落ちるように潜ることを発見しました。 うーん、すごい!! アザラシは江頭2:50よりはるかに偉い、これは冗談。
僕達の医学の世界では、病気/病態のメカニズムを知るためには、最新のカッコいい機械/技術を用いて、1個の細胞の1個のチャネルの電気活動や、タンパクの動態、あるいはDNA変化を調べないといけないと思い込んでいます。しかし佐藤さんのように、比較的単純な加速度計やビデオだけの計測系(データロガーと呼んでいる)のような、「肉眼で見える科学」が生命現象の謎を解き明かすことに感動しました。もしかしたら科学の進歩は、方法論に依存しないかも知れないね。自らの身の丈にあった技術と、生命現象を考え続ける姿勢が重要なのだと思います。こうした佐藤さんの研究姿勢は、小・中学校の夏休みの自由研究の延長にある、子供の好奇心そのものですね。佐藤さんの原点は、「誰もやらない事をやれ」というお父さんの教えだそうな、妙に納得しました。
最後に
-東大生命科学シンポジウムでの、佐藤さんの大学院生募集文-
「求む男女。ケータイ圏外、わずかな報酬、極貧。
失敗の日々。絶えざるプレッシャー、就職の保証なし。
ただし、成功の暁には知的興奮を得る。
ダーウィンもニュートンも田舎にこもって偉大な発見をしました。
岩手県大槌町で研究三昧の大学院生活を送ろう。」
うーん、いい募集案内です。僕は、「わずかな報酬、極貧」を「まあほどほどの生活」、「岩手県大槌町」を「信州松本」に代えて、「ダーウィンもニュートンも田舎にこもって偉大な発見をしました。信州松本で世界を見据えて、臨床、研究三昧の麻酔科医生活を送ろう。」と言いたいですね。