2010年4月19日月曜日

車は急に止まれない

先週末、麻酔科学会の命を受け、神戸でBLS/ACLSの講習を受けてきました。前日、大学の新入1年生の合宿研修会に顔を出さねばならなかったので、夜10時過ぎに車で松本から中津川まで行って1泊して、翌朝神戸に着きました。神戸では朝8時から夕方まで、かなりタイトなスケジュールで2日間にわたり実習・講義を受け、何とか試験に合格してAHA BLS/ACLSプロバイダーコースを終了しました。やれやれ。

今回、BLS/ACLSのトレーニングを受けるのはそれなりに大事だと思ったね。5年くらい前に一度受けたのですが、その時は何となく反発を感じました。AHAか何か知らんが、アメリカの学会なんかにかぶれないで、心停止の状況に応じ現場の裁量に任せた方がいいんじゃないかと思っていました。でも不思議に今回は、ACLSを積極的に受け入れる自分がいたのですね。

200 km/hrの速度で車を運転して急ブレーキをかけると何が起こるか、日本の教習所では教えません。でもアメリカでは教えるところがあるらしいですね。勿論アメリカには教習所がないので、そうした疑似体験をさせる指導教官もいるという程度かも知れません。ともあれ、高スピードの車に急ブレーキをかけると、車体が横ブレした後回転し、回転軸の接線方向に滑って吹っ飛んでいくことを体験して、初めて同じ状況で生き延びるための対策を体で学ぼえようと思うはずです。同じように、蘇生という一刻を争う特殊な現場では、じっくりと考えていたのでは判断ミスすることを講習会で疑似体験し、パターン認識こそ蘇生の王道であることを教え込むのが、ACLSプロバイダーコースだということですね。

サルは医療行為をしません、せいぜい仲間の傷口を舐めるくらいでしょう。ということは医療行為は高度に発達したヒトの脳が行う作業です(当り前か)。しかし一刻を争う状況においては、脳に判断させないで「反射」に頼ったパターン認識こそがもっとも信頼できる反応ということになるかも知れません。脳というシステムは、時間が限られた状況ではしばしば判断ミスをするからね。ですからVFを見たら直ちに胸骨圧迫すべく体が動くように、古典的条件付けするのが今回のわれわれの目的だったという訳です。つまりACLSにおいて「パブロフの犬」になることができれば、コース終了&インストラクターへの道ということになります。なるほど、なるほど、妙に納得できました。5年前はあんなに反発したのに、evidence-based medicineという、これまた西洋由来の考え方が体に染みついたせいか(身に染みつかされたせいか?)、今回は「パブロフの犬」になるのに抵抗がなかったということですね。

でもさぁ、受講者は僕を含めて、結構年齢層が高かったので、年のせいかなかなか「パブロフの犬」にもなれないんだよね。つまり、餌が出てきても涎が流れず、おしっこをちびってしまったりする感じです。年を取ると条件反射も身につきにくいのかも知れません。ということで、特に医局の年配の皆さん、ACLSは早めに受講しておいた方がいいようですぜ。